外国語教育研究所 第14回公開講演会を開催
2024年7月8日
外国語教育研究所(所長:岡田圭子経済学部経済学科教授)は、6月22日(土)に東京大学名誉教授?同大学グローバル教育センター特任教授であるトム?ガリー(Tom Gally)氏を招き、「AI時代の外国語教育―言語と人間はどう変わるか―」というテーマで、第14回公開講演会を対面?オンラインのハイブリッド形式にて開催しました。
講演の冒頭でガリー氏は、AIの進化がもたらした三つのショックについて、自身の体験を交えて話されました。2016年にGoogle翻訳にディープラーニングを用いたニューラル機械翻訳が導入されて翻訳の精度が劇的に上昇したこと、2022年にはChatGPTが登場し、文脈理解と対話の能力が大幅に向上したこと、さらに最近ではAIが人間の知的作業の能力を越えつつあることを示す例として、大学の教員が数日かけて作成するような授業計画であっても、シラバスや教材などさまざまな材料をAIに読み込ませて適切なプロンプトを与えれば一瞬で完成させることができるという実例を紹介されました。
ガリー氏はまた、AIの言語能力の急速な発展によって多言語対応や音声認識に著しい進歩が見られることを指摘しました。外国語学習、とくにスピーキングのトレーニングにおいて、AIは個別学習を可能にし、一斉授業から個別最適化された学習へと教育スタイルが変わる可能性があること、それにより、教師の主な役割が知識を伝達することからファシリテーターに変わる可能性について論じました。一方、現在のAIは人間的なアイデンティティが欠如しており、文化の理解や感情表現の面で人間との完全な代替はまだ難しく、対話や学習を続けたいと思わせるモチベーション付与の点でも人間の教師にしか果たせない役割があります。外国語教育が変革期を迎える今、実用的なスキル獲得の重要性は低下する一方、人間同士の交流や文化理解の価値が再認識されており、ガリー氏は外国語教育の未来について、AIと人間の協働が重要になると予測し、今後はAIを効果的に活用しつつ、人間ならではの新しい教師の役割を見出していく必要がある、と論じました。
いまや講演会のスライドもスクリプトもAIで瞬時に作成できる時代にあって、人間である講演者が参加者に何をどう伝えられるかを示すため、今回の講演会はスライドを用いずに自分の頭の中で生まれた考えを伝えた、と講演の最後に氏は説明しました。
日本各地の研究者、教員、学生のほか、会社員など一般の方々を含め、学内会場での対面とZoomウェビナーでのオンラインで合わせて420名の参加がありました。質疑応答にはたいへん多くの質問が寄せられ、充実した講演会となりました。