設立趣旨
1. 獨協大学の知的資源を活かした環境共生研究の推進
20世紀中葉以降、地球の温暖化、オゾンホールの拡大、酸性雨、熱帯林の減少、砂漠化、大気や海洋の汚染など、多方面にわたる地球規模での環境破壊が深刻化した。さらに、都市?人口?食糧問題、南北格差の拡大、民族対立の激化など、政治?経済?社会問題も深刻の度を増しつつある。今ほど、地球環境を保全して人類の平和と安寧を促進し、われわれの子孫に負の財産を遺さないための叡知の結集と努力が求められている時代はない。「環境共生研究所」は、そのような時代の要請に応えるべく、地域環境問題や地球環境問題の解決に向けて調査?研究を進め、社会や大学教育においてその成果を還元していこうとするものである。
環境問題は単なる自然の問題だけではなく、社会制度や人間活動など、さまざまな要素が複雑に絡み合って形成されている。環境問題は、さまざまな自然的?社会経済的、および地域的諸条件の絡み合いのなかで生起している。したがって、その実態の把握や解決策の検討には、自然科学だけでなく人文?社会科学両面からのアプローチが不可欠である。特に、人文?社会科学に研究や教育の基盤を置いている獨協大学においては、環境と人間活動との関係や地球環境問題を、主として人文?社会科学的および地域的視点から学際的に研究?考察することが求められる。なお、首都圏の大学には環境に関する研究所が、いくつか存在するが、いずれも理工学部など自然科学や技術系の学部を持つ大学に限られており、人文科学?社会科学を中心とした文科系学部からなる大学には、この種の研究施設はほとんどみられない。埼玉県に限ってみても、早稲田大学(本庄市)「循環型環境経済共創システム研究所」や、埼玉県の「環境科学国際センター」などが存在するが、いずれも自然科学系に特化した研究所になっており、獨協大学で「環境共生研究所」を創設すれば他に類を見ない、人文?社会科学系の環境に関する特色ある研究所になりうる。
2005年12月に、獨協インターナショナル?フォーラム「ドイツと日本の環境を考える‐持続可能な社会を目指して‐」が実施され、学部?学科を越えて獨協大学の教職員が協働しながら、有意義なシンポジウムが成功裏に実施できた。このシンポジウムの経験を踏まえ、人文?社会科学を中心とした学部構成の本学にも、上記のように「環境共生研究所」を担う多方面の分野からなる人材が存在し、協働できることが確認された。同時に、成熟型社会に変化?移行し、環境共生社会への取り組みを深めているドイツとの研究上の連携を深める必要性も認識された?
2. 大学周辺自治体における「環境共生研究所」に対するニーズ
大学周辺自治体、とりわけ草加市は高度経済成長期以降、快適で効率的なまちづくりを目ざしてきたが、反面、草加の風土に育まれた身近な自然環境を喪失してきた。 草加市では、 1999年6月に「環境共生都市宣言」を行ない、 残された自然を保全し、さらには失われた自然を再生して将来世代に身近な自然を残し、自然と共生する持続可能な社会を築くことを課題としている。 その推進を図るため、 2000年3月に「環境基本条例」を制定し、さらに環境施策の基本となる「環境基本計画」を策定し、この計画に基づき、 様々な取り組みを実施している。
「環境にやさしい水と緑のまちづくり」を目的として、1)水と緑を育む「水と緑の回廊」プロジェクト、2)環境と共生する「環境自治体」プロジェクト、3)心地よい風景をつくる「草加松原?綾瀬川左岸」プロジェクトなどがある。また、これらのプロジェクトに加えて、 市民や商工会議所、事業所、行政など様々な主体からなる「今様?草加宿」実行委員会は、国の支援も受けながら、草加宿とその周辺の「地域再生ビジョン」を 2005年3月に策定している。さらに現在、獨協大学に隣接する草加松原団地の建替えにあたって、環境共生や居住者のライフスタイルに対応した、安心して居住できるまちづくりが「都市再生機構」をはじめ「産?学?行」の協働によって実施されようとしている?こうした各種プロジェクトの中で、地域の省エネルギー化計画と「環境マネージメントシステム」の構築、 草加市 を流れる河川の水質浄化に取り組むとともに、親水性や生態系に配慮した河川整備や道路の緑化、ビオトープネットワークの形成など、獨協大学のキャンパス再編との関連も踏まえた提言を求められている?こうした地域からの要望や期待に応えるためにも、獨協大学にシンクタンクとしての機能を十分に備えた 「環境共生研究所」の設立が必要である。