2006 学生懸賞論文入賞作品(3編)
入選
「なぜ日本人は履物をぬぐのか」
言語文化学科1年 福田 亜矢子 要旨はこちら
佳作
「住民とまちづくりについて」
国際関係法学科4年 小倉 優 要旨はこちら
「敵対的買収と経営戦略」
経営学科3年 山﨑 尚 要旨はこちら
<入選>
「なぜ日本人は履物をぬぐのか」
言語文化学科1年 福田 亜矢子
今も履物を脱がずに生活できる住居を構えることができるのに、なぜ日本人はあえて履物をぬぐ生活様式を続けているのだろうか。この素朴な疑問からこの論文を書いてみたいと思った。調べる中で、西洋人は、特にキリスト教の世界では、主体としての自己を中心に物?事を捉えることから、住居に関する公私の認識が明確であり、室内においてもその認識が働いていることがわかった。一方日本人は仏教思想のもとにあって室内と室外の認識が開放的で、一体的である。また家族や共同体にも一体感がある。そのような中で内外を区別するために日本の家構造は玄関や縁側に緩衝地帯、あるいは境としての重要な役割を持たせている。その場で日本人は今も履物をぬぐのである。汚いという感覚は不浄や宗教的なけが穢れに繋がり、履物につく汚れを穢れとすれば、履物をぬぐことで共同体に付く穢れを避けることができる。履物をぬぐ、ぬがないは基層文化による行動様式の継承であり、こうした自らの癖を認識することが「いじめ」などの現代社会の問題解決の糸口になると考える。
<佳作>
「住民とまちづくりについて」
国際関係法学科4年 小倉 優
本稿では住民とまちづくりというテーマについて述べた。
住民の有す受益者、納税者、主権者という三側面について述べた後、住民が地方リーダー(首長、市区町村議員)に不満を有している実態が浮かぶ。この不満に対処するには、住民が自分の住む地域に関わる必要性があること、現代人の特性に関する考え方から住民を分析すると、住民自身の帰属意識が住んでいる場所よりは機能(公共性)に置かれている傾向があるといえる。これが住民のジレンマとなっていることが分かった。しかしよく観察するとこのジレンマが、実は住民に有効に作用して、彼等のまちづくりへの動機が形成され、まちづくり協議会が生まれ、そして主体的な参加意識へと繋がり、住民のジレンマを解消していく機会を与えていることも分かった。 何かのきっかけで本稿を見た人が自分の住んでいる地域へ少しでも意識を向けてもらえれば、と思って本稿をしたためた。
<佳作>
「敵対的買収と経営戦略」
経営学科3年 山﨑 尚
敵対的買収や株の買い占めを日本企業の支配構造や市場環境と照らし合わせながら考察し、経営戦略上の必要性と攻防のあるべき姿を論じた。
日本において敵対的買収が成功しないことに疑問を感じた私は、調査結果として①内部昇進者による役員が会社経営の意思決定権を掌握していること、②日本特有の株主構成が経営者の意思決定を有利にさせていることを指摘し、敵対的買収の盛んな米国と比較した。日本の市場環境がグローバル化や高度情報化、技術進歩の加速などによって飽和化しつつある中、短期に競争力を確保する上で敵対的買収は経営戦略の積極的な選択肢の一つであり、また企業が保有する経営資産の有効活用が行なわれているかどうかチェックできるバロメーターであることを論じた。
その上で、敵対的買収が生じた際には買収側と被買収側の双方の経営者が市場に対して、今後の会社の将来像と具体的な行動を公開し、その判断を株主に任せることが本来の敵対的買収の攻防におけるあるべき姿ではないかと提案した。
審査委員長 講評
審査委員長 佐藤 勉
第34回学生懸賞論文のコンテストには10編の応募がありました。今年も「テーマ課題」と「自由課題」の二種類に分けたのですが、結果は、「テーマ」が3編、「自由」が7編でした。テーマでは「獨協大学の未来像」が1編、「ニートとフリーター」が2編、自由では7編でした。
今回入選された福田亜矢子さんの論文「なぜ日本人は履物をぬぐのか―現代社会を見据えるために」(自由課題)は、私たちが当り前と感じている履物をぬぐという行為を日本の基層文化の表象と捉え、建築、思想、共同体、不浄感、けが穢れなど民族学的に考察し、日本の文化が西洋化し、変化す中で、履物をぬぐか否かという行動様式は共同体のうち内とそと外の境を示す一つの根幹であり、こうした基層文化の自覚的認識が、日本が今日抱える諸問題を解決する糸口となるであろう、と考える論述には明徴な説得力がある。
佳作には小倉優君の「住民とまちづくり」と山崎尚君の「敵対的買収と経営戦略」が選ばれた。小倉論文は地域と住民の乖離の関係を場所と機能による変化に起因することを指摘し、住民はまちづくりに関わるジレンマを持ちながらも、機能より場所に目を向ける意識でまちづくり協議会を自主的につくり、地域と住民のコミュニティー意識を醸成するのに役立っている。地域住民が自分の住む場所に関心を抱く自己意識が大切であると主張する。若者が地域に目覚める意識の変化プロセスを分析する。
また山崎論文は企業の敵対的買収が正当な経営戦略の有効な一部となり得ると考え、この戦略を脅威と取るか、日本の資産運用への有効活用のバロメーターと取るか分かれるが、この戦略は企業経営に適度な緊張感と好影響を与える筈であると主張する。今日的な論題を自分のものにした高論である。
以上、入選1編と佳作2編の講評ですが、応募論文の中には自分の言葉の感性を機軸にやや辛口に論じたものや最新のデータを駆使したものまで個性的でした。
今後この懸賞論文に一層の関心が高まり、皆さんの清新な論文の応募を期待し、講評の一端と致します。